学園も間近に迫った付近で よく知る後姿を発見した あの見事なまでにそっくりな 二つの影 「不破君と鉢屋君、だよね?」 問いかけると 二人が振り返った 「…あれ どうして学園の外にさんが?」 「居てもたっても居られなくなる悪い虫が身体の中で疼いてしまい…って それより!」 私は二人に 瀕死の状態で倒れている男性の事を一通り話した 二人は ひとまず男性を学園まで運ぶ事を了承してくれた 「二人共ありがとう こんな時に お手を煩わせてごめんなさい」 「何故謝るのですか、命を救う事に手を煩わすも何も無いよ」 「その場所で倒れていたという事は 侵攻してきた敵兵ではないだろうしな」 そう言うと 二人は男性が倒れている方向へと駆けて行った 頼もしい彼らの背中を見つめながら 少し涙ぐんでいる私が居る 「不破君も鉢屋君も 本当にありがとう……いのち だいじに」 「ならば 何故此処に居る」 「ぎゃっ!」 怒気の込もった声が 両耳に響いた どうして皆 気配を消して私に近づくのか 振り向くと 一番会いたかった人が眉間に皺を寄せて直立していた 「へ…兵助さん 御無事で何よりです…」 「何故、が学園の外に居る しかも夜だぞ」 「…皆が戻ってくるか不安になって……もし 道端で倒れていたらと思ったら…その、」 「そんなヘマはしない、だいたい力が使えようが何だろうが には戦う術が無いだろう」 尤もな意見だ 私は トリップという不可解な能力を使えるからと 自分を過信しすぎていた こんなにも 無力なのに 「じっとしていられないだろうな、とは思っていたが…」 「…ごめんなさい」 「いいから 学園に戻るよ」 兵助は 私の右腕を握って夜道を早足で歩き始めた 意識せずに こういう事をする人って、困る 触れられている部分が 熱い 離してほしい、けれど離してなんて絶対言わない いつからだろう こんなに彼の事を気にするようになってしまったのは 自らを猪突猛進型だとは自覚していたが 果たしてこんなに単純だっただろうか 好きになってはいけなかったのに 違う時間を生きている人に こんな想いを抱いた所で ハッピーエンドは訪れないのだ 「兵助、学園に 本物の“娘さん”が来たの」 「えぇ!?…それは……バレたよな?」 私が偽物である、という事が 「娘さん…お梅さんが私を庇ってくれたの、私は彼女の妹だという設定にしてくれた」 「随分 親切な人が居たものだ」 兵助は半信半疑のようだ 「でも 嘘を吐くのはやっぱり辛いし良い事ではない…だから」 私は 足を止めた 腕に籠っていた熱が冷めていく 「もう この時代には来ない事にする」 どうせリミットは すぐ傍まで来ていたんだ 12 time goes on 「…随分と 急な判断で」 相変わらず 兵助は涼しい眼をしている 「私のエゴで此処まで来たけど 色んな人に迷惑を掛けてしまった」 「誰かに 迷惑だと言われたのか?」 「それは……別に言われてない」 「少なくとも 俺は迷惑掛けられたとは思っていないからな、最初はさておき」 帰ろうと決めた矢先に 優しい科白を言うのだから 「私、兵助の事が好きなんだ」 口が勝手に 動いていた 「急にどうしたんだ、俺もの事は好きだぞ?」 「私の好きと兵助の言ってる好きは違うんだよ」 「違う…?何が違うんだ」 「…私と一緒に居てくれてありがとう、じゃあ…ね」 「・・・・ちょっと待っ」 言い逃げなんて 最低かもしれない 兵助も いつかは絶対に 私の言った「好き」の意味が解る筈だ でも 貴方にもう会う事は無いのだ そして 貴方もいつか 私を忘れる位に誰かを好きになる事だろう 時が経つというのは 痛みを和らげてくれるのか 残酷なのか 瞼を開くと 私は 祖父の家の庭に座っていた 哀しい訳ではないのに 今にも涙が溢れそうなのは如何してなのか 「なんじゃ〜ドタドタと…おぉか 約一ヶ月振りだな」 「じいちゃん…」 救急箱を取りに行ったのは今日の出来事なのに 此方では一ヶ月振りとは…誤差が随分酷いようだ まぁ 誤差が出ようが何だろうが もう関係の無い事 「で、の後ろに居るのは どちら様かね?」 NEXT → (09.11.29) |